全間連第14次海外(欧州)税制視察団は、平成20年6月29日(日)に成田を出発し、イギリス及びフランスの2カ国を訪問し、7月6日(日)に成田着で帰国しました。
全間連第14次海外税制視察の概要
全間連では、消費税の見直しの機運が高まってきたことを背景として、消費税(付加価値税)の先進国であるイギリスとフランスに視察団を派遣し、それぞれの国の付加価値税の実施状況等を調査してまいりました。
この調査事績等の概要は、次のとおりです。
1 視察団の構成
視察団は、団長・鈴木豊久(東京)、副団長・渡邉 力(東京)、事務局・江川治美(専務理事)をはじめ、総勢14名でした。
2 視察日程
平成20年6月29日(日)に成田を出発し、7月6日(日)に成田に帰着する8日間でした。
3 視察事項
今回の視察は、わが国の消費税の見直し(税率引上げ)が検討される際には、食料品を一般の税率より低い税率(軽減税率)とするかどうかが最大の焦点になると思われることから、食料品を軽減税率の対象としているイギリスとフランスにおいて、その実施状況や実施上の問題点等に重点をおいた調査を実施しました。
4 視察先
今回の視察先については、まず、それぞれの国にある日本国大使館において、財務省から派遣されている書記官等から、付加価値税の制度面などについて説明を受けました。
次いで、日本から進出している百貨店(三越及び高島屋)の担当者から、実施面などについて話を聞きましたが、この席には、それぞれの百貨店の財務顧問をしている現地の会計士(税理士)も同席していただき、百貨店での実務を超えて幅広い話を聞くことができました。
5 付加価値税の制度
(1) 付加価値税の導入年
付加価値税の導入年は、イギリス1973年、フランス1968年です。日本は1989年(平成元年)ですから、両国とも日本より20年前後の古い歴史を持っています。
(2) 標準税率
付加価値税の標準税率は、次のようになっています。
イギリス 17.5%(景気対策として、昨年12月から本年12月末までは、15%とされています。)
フランス 19.6%
(3) 食料品の税率
食料品の税率は、次のようになっています。
イギリス 0%
フランス 5.5%
(注)0%の税率(ゼロ税率)とは、0%で課税されるということで、売上げに対する税額はなく、仕入段階で課された税額は仕入税額控除を通じて控除又は還付されるとことから、販売価格の中には税額が全く含まれないことになります。
(4) 食料品以外の軽減税率
食料品以外にも、次のものは軽減税率の対象とされています。
イギリス
家庭用燃料、電力等 5%
水道水、新聞、雑誌、書籍、国内旅客輸送、医薬品、居住用建物の建築、障害者用機器等 0%
フランス
雑誌、書籍、旅客輸送、肥料等 5.5%
新聞、医薬品等 2.1%
(5) 軽減税率の対象とならない食料品の範囲
食料品は基本的には軽減税率の対象ですが、食料品であっても軽減税率の対象にされていないものがあります。
イギリス
○宅配による飲食物の提供、建物内における飲食物の提供、温かい持ち帰り用食品の提供
○アイスクリーム等の冷凍菓子類、菓子類(ケーキ及びチョコレートでコーティングされていないビスケットを除く。)、ポテトチップス等のスナック菓子類
○アルコール飲料、ジュース等の飲料類(ボトル詰めの水を含み、コーヒー、ココア、茶、ハーブ茶及びこれらの加工品を除く)等
フランス
○レストランやホテル等で販売されその場で消費される食品類
○砂糖菓子、チョコレート(板チョコ及び一口サイズのものを除く)、チョコレート又はカカオを含む菓子類
○マーガリン及び植物性油脂、キャビア
○アルコール飲料等
(6) 食料品の具体的な取扱い
食料品の基本的な取扱いは上の(5)のとおりですが、一口に食料品といっても、例えば、とうもろこしは人間も食べれば、家畜のえさともなり、また、工業用原料にもなるなど、その範囲を定めるのは容易ではありません。更に、食料品に該当しても軽減税率の対象外とされているものも多くあり、軽減税率に該当する食料品であるかどうかの判断もなかなか難しいようです。
食料品をはじめとする軽減税率の取扱いについては、多くの参考事例が国税当局から示されており、新しい製品を作る時などは、常にこの参考事例とチェックする必要があるが、これも大変面倒な作業であると言っていました。
食料品の具体的な取扱いの例を、参考までに示せば次のとおりです。
① 菓子類は、基本的には標準税率であるが、ケーキ類とチョコレートでコーティングされていないビスケットは軽減税率である。(イギリス)
② チョコレート菓子の取扱いは、複雑である。板チョコ・ボンボンのようなチョコレート菓子は標準税率、ケーキ類はチョコレートを使っていても軽減税率、チョコレートでコーティングされたビスケットは標準税率である。(イギリス)
③ チョコレート菓子は標準税率の対象であるが、板チョコと一口サイズのチョコレートは軽減税率である。板チョコは家庭で作る料理の材料として使われることが多く、また、一口サイズのチョコは、庶民が口にするものであることから、軽減税率の対象とされている。
また、チョコレート菓子に該当するかどうかの区分は、カカオの含有量によることとし、50%以上のものは標準税率、50%未満のものは軽減税率の対象となっている。(フランス)
④ お酒やジュースなどの飲料類は、標準税率の対象である。
水については、水道水は軽減税率の対象であるが、瓶やペットボトルに詰めたものは標準税率である。
氷は袋入りでも軽減税率である。(イギリス)
⑤ 調味料は、塩、胡椒などは軽減税率であるが、グルタミンソーダなどの化学調味料は標準税率である。(イギリス)
⑥ 高級食材というのみでは標準税率とされることはないが、産業政策的に標準税率とされるものがある。(フランス)
○フランスの三大珍味といわれるキャビア・トリュフ・フォアグラについて、キャビアは標準税率、トリュフとフォアグラは軽減税率の対象とされている。
これはトリュフとフォアグラはフランス国内で生産されるが、キャビアは全量輸入なので、産業政策上の観点から区分されている。
○バターは軽減税率の対象であるが、マーガリンは標準税率が適用になる。これは、工業製品であるマーガリンに対し、酪農品であるバターの生産を保護し振興するための産業政策からくるものである。
⑦ レストランなどの飲食店で提供される飲食は、単なる食料品の販売でなくサービスも含まれるため、標準税率が適用される。(イギリス、フランス)
⑧ 飲食店などの店内で食べるものは標準税率の対象であるが、店内で食べないで持ち帰るもの(テイクアウト)は、食料品の販売として軽減税率の対象になる。(イギリス、フランス)
⑨ テイクアウトでも即時に食べられるよう温めたもの(温かい状態で販売するもの)は、標準税率が適用される。
例えば、イギリスの代表的な庶民の昼食であるフィッシュ・アンド・ポテトチップス(揚げたての魚のフライと温かいポテトチップスをとり合わせたもの)やマクドナルドのハンバーガーのようなものは、テイクアウトでも標準税率が適用される。
これに対し、寿司とかサンドイッチは販売時に温めるものではないので、テイクアウトは軽減税率の適用となる。(イギリス)
⑩ スーパーやコンビニなどで販売する食料品は軽減税率の対象であるが、レンジなどで温めて渡すような場合は標準税率の対象になる。(イギリス)
(7) 軽減税率を設けていることによる問題点
軽減税率を設けているために、単一税率の日本の消費税と違って、次のような問題点があると強く感じました。
① 軽減税率の対象になる食料品の範囲は、両国ともきめ細かく決められているが、その線引きは大変難しく、また、それに該当するかどうかの判断も極めて煩雑である。
② 店内飲食か店外飲食(テイクアウト)か等の事実認定をめぐって、税務当局とトラブルが多発する。
③ 軽減税率を設けることとすると、その対象は食料品に止まらず、各方面から追加要請が提起され、政治的発言力の強い業界の物品等が加えられる傾向は避けられず、公平さが欠ける虞がある。
④ 複数税率制の下では、仕入税額控除を的確に行うために、取引きの都度、適用税率区分及び税額を別記したインボイス(仕切書、納品書等)を発行する必要があり、定着するまでは事業者の事務負担も大きくなる。
⑤ インボイス制の下では、免税事業者はインボイスを発行できないので、事業者との取引きから排除される虞がある。それを避けるために、課税事業者となることを選択せざるをえないことになる。
6 まとめ
今回の調査を通じて、軽減税率制度にはいろいろの問題点があることが分かりました。この調査結果は、税制委員会に詳しく報告し、今後の税制提言をまとめる際に、参考にしていただきたいものと思います。(文責 専務理事江川)