全間連第13次海外(欧州)税制視察団は、平成13年7月2日(月)に成田を出発し、ドイツ、イタリア及びフランスの3か国を訪問し、 7月9日(月)に成田着で帰国しました。
1 視察団の構成
視察団は、団長・澤田榮治(東海)、副団長・稲垣美治(東京)、尾木信藏(東海)、事務局・江川治美(専務理事)をはじめ、総勢28名でした。
2 視察事項等
今回の視察は、付加価値税(消費税)の先進国であるドイツ、イタリア、及びフランスにおいて、付加価値税の実施状況、特に企業における付加価値税の実務の処理状況及び実務上の問題点に重点を置いた調査を行いました。
調査は、まず、訪問国に所在するジェトロ(日本貿易振興会)事務所(ドイツ・フランクフルト、イタリア・ミラノ、フランス・パリ)の所長等から、現地の経済情勢や民間サイドからみた税制問題等についての講話をいただきました。
次いで各国とも現地に進出している日本企業(現地法人)を訪問し、社長や経理担当の方から、事前に提出していた付加価値税の実施処理を中心とした質問事項に回答をいただき、その回答を踏まえて質疑応答をする形で調査を行いました。
また、ドイツは介護保険の先駆者であることから、介護保険の対象となっている老人福祉施設を訪問し、フランクフルト市の福祉担当課長から福祉制度全般についての話を拝聴するとともに、施設の状況を視察しました。
3 訪問国の税制等
今回の訪問3カ国の税制等を日本と比較すると、次のとおりです。
(1) 国民負担率
税金などの負担が高いか低いかを比較するときに、一般に国民負担率が使われます。
これは国民所得に対する租税負担と社寺会保証負担の合計の占める割合をいい、この率が高い国ほど税金などが高い国といえます。
日本の国民負担率は、36.9%で、訪問3カ国に比べてかなり低い水準にあります。
各国の国民負担率
日本 22.6% 14.3% 36.9%
ドイツ 29.2% 26.7% 55.9%
イタリア 37.6% 19.9% 57.5%
フランス 36.7% 28.6% 65.3%
(2) 所得・消費・資産課税等の割合
各国の税の構成を比較する場合には、一般に、所得課税・消費課税・資産課税等の割合がよく使われます。
日本は、訪問3カ国に比べて、消費課税の割合が低い国といえます。
所得・消費・資産課税等の割合
日本 53.5% 30.1% 16.5%
ドイツ 49.3% 46.6% 4.0%
イタリア 46.3% 39.3% 14.5%
フランス 36.5% 42.1% 21.4%
(3) 消費税(付加価値税)の標準税率等
消費税(国際的には、「付加価値税」といいます。)の税率は、フランスを除き、導入当初より徐々に上昇してきています。
標準税率が高い国では、一般的に、食料品などについて軽減税率を設けています。
消費税の標準税率等
日本 1989年 3% 5% 5%
ドイツ 1968年 10% 16% 7%
イタリア 1973年 12% 20% 10%
フランス 1968年 20% 19.6% 5.5%
(4) 消費税の免税点の水準
日本の消費税の事業者免税点は年間の売上高3,000万円ですが、訪問3カ国はかなり低い水準にあります。
事業者免税点の水準
日本 3,000万円
ドイツ おおむね 500万円
イタリア おおむね 50万円
フランス おおむね 300万円
(5) 申告納付
日本の申告・納付の回数は、確定申告年1回、予定申告は無し及び1回又は3回となっていますが、訪問3か国は予定申告も合わせ、毎月、申告納付をすることとなっています。
申告・納付の回数
日本 1年 なし及び年1回又は3回 1・2又は4回
ドイツ 1年 毎月 12
イタリア 1年 毎月 12
フランス 1ヶ月 ― 12
(6) 仕入れ税額控除の方式
消費税の課税の累積を排除するための仕組みである仕入れ税額控除の方式については、日本では取引の事実を記載した帳簿とともに請求書等の取引事実を証する書類の保存を要件とする方式(請求書等保存方式)によっていますが、訪問3ヶ国は税額を別記したインボイス(納品書・請求書等の取引書類)の保存を要件とするインボイス方式によっています。
仕入税額控除の方式
日本 請求書等保存方式
ドイツ インボイス方式
イタリア インボイス方式
フランス インボイス方式
訪問3ヶ国は、いずれも標準税率のほか食品等について軽減税率の対象とする複数税率製を採っており、税額別記のインボイス方式は必然のものですが、事業者の立場から見て、付加価値税が少なくても取引上インボイスは必ず発行するもので、それに税額を付記することについて特別の事務負担を感ずることは無く、また、付加価値税は導入後30年を経過し、インボイス方式もすっかり定着していて、これに抵抗を感じたり違和感をもつことはないとのことでした。
(7) 消費者価格への消費税額の表示
日本では、消費者価格への消費税額の表示は、内税方式・外税方式混在している中で外税方式が主流になっていますが、訪問3カ国では例外なく内税方式に問う位置されています。
これからはかつて取引高税から移行したという歴史的経緯や国民性もありますが、法律により外税方式は禁止されているという背景があります。入後30年を経過し、インボイス方式もすっかり定着していて、これに抵抗を感じたり違和感をもつことはないとのことでした。
(8) 税率の改正があった場合の価格改定
税率の改正(引き上げ又は引き下げ)があった場合の取引価格の改訂については、事業者間取引はインボイス上に別記する税額を改正することにより、即日実施しています。
これに対し、消費者価格については外税方式をとっている日本の消費税では、税率改訂時に一斉に改正後の新税率に切り替わりました
(平成9年4月1日に、従来の3%から5%に引き上げ)が、内税方式をとっている3ヶ国では、税率改正が行われても即時に消費税価格を改訂することなく通常の仕入れコストの変動と同じレベルでとらえ、必要に応じさみだれ式に行ってきているとのことでした。
ただ、フランスのように税率の引き下げが行われた場合には(200年4月1日から、標準税率は20.6%から19.6%に引き下げられた)できるだけ早い機会に値下げを行うのが望ましいとしながらも、全商品一斉に対処するということはないようでした。
4 まとめ
今回の税制視察では多くのことを調べて来ましたが、紙面の関係で要点のみの報告とさせて頂きます。
この視察内容は、7月に開催された税制委員会・常任理事会で報告され、「平成14年度税制及び執行に関する要望書」の審議の際の参考にされました。