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■消費税の改正の経緯と今後の検討課題
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1 消費税の改正 消費税は、平成元年(1989年)4月に3%の税率で創設されて以来、平成9年(1997年)4月に税率は4%に引き上げられるとともに、1%の地方消費税が新たに設けられ今日に至っています。 その制度面については、次のような改正が行われました。
(1)平成3年10月1日から ・非課税対象の拡大(住宅の貸し付け、助産サービス等の追加) ・簡易課税制度の見直し(適用上限の引き下げ、みなし仕入率の細分化) ・限界控除制度の適用上限の引下げ ・申告納付回数の見直し(一定規模以上の事業者の中間申告・納付回数の増加)
(2)平成9年4月1日から ・事業者免税点制度の見直し (一定の新設法人に対する事業者免税点制度の不適用) ・仕入税額控除の適用要件の見直し(請求書等の保存を要件に追加) ・簡易課税制度の見直し(適用上限の引下げ、みなし仕入率の細分化など) ・限界控除制度の廃止 ・確定申告書等の添付書類の義務付け
(3)平成16年4月1日から ・事業者免税点の適用上限の引下げ(3,000万円→1,000万円) ・簡易課税制度の適用上限の引下げ(2億円→5,000万円) ・大規模納税者の申告・納付回数の増加 ・年間納税額4,800万円超(地方消費税と合わせて6,000万円超)の事業者の申告:納付回数は年4回→年12回(毎月) ・消費者価格表示の総額表示方式の義務化 -------------------------------------------------------------------- 2 今後における消費税の検討課題 (1) 消費税の現状と見直し問題の背景 消費税は、平成元年に創設され、今年で23年目を迎えました。 創設当時の税率は3%でしたが、平成9年からは5%(うち1%は地方消費税)になり、来年度(平成23年度)の歳入予算においては10兆2,000億円(国の4%分の税収)が計上されており、これは所得税(13兆5,000億円)に次ぎ、法人税(7兆8,000億円)を上回る税収をもたらす基幹税となっています。 この消費税につきましては、昨年7月に行われた参議院議員選挙におきまして、厳しい財政事情を背景にして、その見直し問題が一つの争点となりました。 消費税の見直し問題につきましては、自由民主党の麻生政権時代には、平成23年度(来年度)までに必要な法制上の措置を講ずることとされていましたが、1昨年8月の衆議院議員選挙により誕生しました民主党の鳩山内閣におきましては、次の衆議院議員選挙が行われるまでの4年間は、消費税の税率の引上げは行わないこととされていました。 その後、民主党政権におきましても、昨年6月に鳩山内閣から菅内閣に移り、菅内閣においては鳩山内閣時代の方針を変更し、強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現するために、消費税を含む税制の抜本改革に取り組む方針を打ち出しました。そして、参議院議員選挙のマニフェストには、早期に結論を得ることを目指して消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始すると明記するとともに、菅総理大臣は選挙期間中、@今年度内に消費税の改革案を策定する、A消費税率は自由民主党提案の10%が一つの参考となる、B消費税の税率引上げに際しては、消費税の逆進性を緩和するために、食料品などを標準税率より低い税率とする軽減税率を設けるか、給付付き税額控除制度を設ける方向で検討するなどと述べてきていました。 しかしながら、参議院議員選挙において、民主党が敗北したことから、消費税の見直しについての検討は、選挙前の方針は修正され、先送りされることになりましたが、昨年の12月に閣議決定された平成23年度の税制改正大綱におきましては、平成23年度には消費税の見直しは行わないものの、社会保障制度の抜本改革の検討などと併せて、その具体的な内容について、早急に検討を行っていくこととされています。この点に関連して、菅総理大臣は、この6月をめどとして見直しの方向付けを行うと説明してきています。
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(2) 見直しに当たっての問題点等 今後、政局はどのように動いていくのか分かりませんが、昨今の厳しい財政事情や、少子高齢化の進展に伴う社会保障財源の確保の必要性などを踏まえまして、また、民主党のみならず、自由民主党を始めとするいくつかの党が、消費税の見直しは避けて通ることのできない検討課題であるとしていることからみましても、近い将来、消費税の見直しに向けての具体的な検討が開始されるものと思われます。 消費税の見直しに当たって、税率を何時から何%にするかは政治判断の問題ですが、税率引上げが行われる際には、消費税に内在する逆進性を緩和するため、食料品などは一般的な税率よりは低い税率(軽減税率)とするか、税率は単一としつつ給付付き税額控除制度を設けるか、という問題があります。 この逆進性緩和対策には、いろいろの問題を含んでいますので、要点を説明させていただきます。 (3) 消費税の逆進性 消費税は、消費支出に対して一定の税率で課税しますので、消費支出に対しては比例的な負担となります。 しかし、所得を基準にして消費税の負担を考えますと、所得の低い方は、貯蓄に回すゆとりがないため、所得と消費支出は近い金額になるのに対し、所得の多い方はかなりの部分を貯蓄や投資に回すゆとりがあるため 所得に対する消費支出の割合は小さくなります。このことから、所得に対する消費税の負担割合を見ますと、低所得者ほど負担率が高くなるという問題があります。これを消費税の逆進性と言っているのですが、この逆進性を緩和するために、消費税を導入している多くの国で、軽減税率制度を設けたり、給付付き税額控除制度を設けています。
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更新日:
2011年2月25日
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(4) 軽減税率制度 食料品など生活に密着した物やサービスを低い税率とする制度で、これにより低所得者の消費税負担を少しでも軽くしようとするものです。 この軽減税率制度は、ヨーロッパ諸国で広く採用されており、一般的に、食料品、水道水、新聞・雑誌・書籍、医薬品、旅客輸送等がこの対象にされています。 しかし、この取扱いは、参考資料「主要国の付加価値税の軽減税率の概要」にあるように国によりかなり異なっていますし、軽減税率を設けていない国も多くあります。 さらに、食料品を軽減税率の対象としている国でも、軽減税率の対象になる食料品の範囲は異なっています。例えば、レストランなどの飲食店での飲食は、次のような扱いをしています。 ○ フランス 飲食店内での飲食も外に持ち出しての飲食(テイクアウト)も、軽減税率の対象 ○ ドイツ 飲食店内の飲食は標準税率、テイクアウトは軽減税率の対象 ○ イギリス 飲食店内の飲食は標準税率、テイクアウトは軽減税率の対象 ただし、温かい食品のテイクアウトは標準税率の対象 この軽減税率制度には、一般に次のような問題があると指摘されています。 @ 何が生活に密着した物やサービスなのかを合理的に選定するのが難しい。かっての物品税時代に、何が贅沢品かを選定するのが難しく、多くの批判があったのと同じような問題が生じる。 A 制度上は@の選定ができても、それに該当するかどうかを判断するのは実務上大変で、その判断をめぐって税務当局とトラブルを引き起こす種となる。 B 事業者が仕入税額控除を的確に行うために、事業者間の取引については、納品書、仕切書や領収書などの取引関係書類に、取引に際して適用された税率と税額を明示する制度(税額別記のインボイス制度)が必要となり、事業者の事務負担が増えることになる。 C Bの税額別記のインボイスは、課税事業者のみが発行でき、免税事業者は発行できなことから、免税事業者からの仕入れは仕入税額の控除ができないため不利となるので、免税事業者は取引から排除されるおそれがある。
また、課税事業者は、税務署に登録し課税事業者番号をもらい、インボイスに明記することが必要になる。 D 軽減税率を設けると、その範囲にもよるが、その分税収が少なくなるので、一定の税収を確保しようとすると、標準税率を高くせざるを得ないことになる。
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更新日:
2011年2月25日
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(5) 給付付き税額控除制度 所得税における給付付き税額控除制度は、所得税における各種の控除を所得控除ではなく税額控除とし、算出された所得税額からその控除対象税額を控除し、控除できない場合には給付するという制度です。 例えば、現在の基礎控除の金額は38万円で、その金額をその者の所得金額から控除することとされています。このような所得控除では、所得税率5%が適用される者の控除税額は1.9万円、10%の者は3.8万円、20%の者は7.6万円となるなど、所得金額が高い者ほど控除税額が多くなります。また、所得税額がない者には、何の効果もないことになります。 この所得控除を税額控除に切り替え、例えば基礎控除は3万円の税額控除とし、その者の算出税額からその金額を控除し、控除できない者に対しては給付するというのが、給付付き税額控除制度です。 この制度によりますと、例えば、所得税の算出税額が5万円の者の納税額は2万円(5−3万円)になり、算出税額が2万円の者には1万円(2−3万円)の給付が行われることになり、算出所得税額がない者に対しては3万円が給付されることになります。 この所得税における給付付き税額控除制度の対象に、消費税の逆進性緩和のための措置を採り入れようするものであり、カナダなどで設けられています。 カナダ(消費税の税率は、日本と同じ5%)の制度は、消費税の税額控除額を大人一人につき2万円、子供一人につき1.5万円(金額は、いずれも仕組みを分かり易く説明するための概数です。以下同じ。)と決め、夫婦のみの家庭に対しては4万円(2万円×2)の税額控除(給付)、夫婦子供2人の家庭に対しては7万円((2万円×2)+(1.5万円×2))の税額控除(給付)をするものです。 例えば、夫婦子供2人の家庭の算出所得税額が10万円であるとするならば、所得税の納付額は3万円(10−7万円)となり、算出所得税額が3万円の場合は4万円(3−7万円=△4万円)の給付、算出所得税額が0の場合は7万円が給付されるというものです。 この制度は、低所得者の消費税負担を緩和しようとするものですから、一定以上の所得のある者には適用されません。カナダでは、所得額が300万円以下の家庭には全額が控除(給付)されますが、300万円を超えると控除額は低減して行き、400万円を超えると給付は受けられないという仕組みになっています。
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更新日:
2011年2月25日
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この制度の下では、消費税の税率は単一税率となりますので、(4)の軽減税率制度のような問題は生じませんが、高額所得者が給付を受けることがないようにするため、各人の所得額(世帯単位で適用することになりますので、世帯全体の所得額)をきちんと把握する必要から、納税者ごとに番号を付ける納税者番号制度のような制度を設けることが必要になります。 3 間税会の対応 間税会は、消費税の税率引上げに賛同し、その推進を図る団体ではありませんが、消費税の見直しが避けて通れないとした場合に、消費税の制度が国民の皆様に理解され、支持が得られるような制度であってほしいとの思いから、今後における消費税のあり方等について調査研究をし、税制当局に提言活動をしてきているところです。 全間連の平成23年度の税制改正に関する提言書は、去る7月に税制委員会で検討審議した結果を踏まえて常任理事会で取りまとめ、昨年秋に税制当局に提出しました。 この提言書においては、消費税の逆進性の緩和策については、次のように言っています。 ○ 単一税率の維持と給付付き税額控除制度の創設 (要旨) 消費税は、税率の引上げが避けて通れない場合においても、単一税率を維持し、低所得者に対する配慮(逆進性の緩和措置)は、軽減税率制度ではなく、所得税において給付付き税額控除制度を設け、その対象にすることにより対処することを検討すべきである。 ○ 納税者番号制度の導入 (要旨)納税者番号制度の導入を検討されたい。 (理由)納税者の利便の向上と課税の適正化を推進するために、プライバシーの保護に配意しつつ、諸外国の実施例を参考にして、納税者番号制度を創設する必要がある。 当連合会は、消費税の税率の引上げが行われる際には、低所得者の消費税負担を緩和するため、所得税において給付付き税額控除制度を設けるとともに、消費税をその対象にするよう要請しているが、給付付き税額控除制度を的確に運営するためには、納税者番号制度は 不可欠なので、そのためにも納税者番号制度の導入を検討されたい。 4 まとめ 今後、消費税の見直しについての検討審議が本格化してきますと、この逆進性の緩和策のあり方が議論の中心になってくると思われますので、間税会もこの点についてさらに調査研究し、税制当局に提言するとともに、世に広く軽減税率制度と給付付き税額控除制度の内容と利害得失を知っていただくための啓発活動に取り組み、国民の皆様に的確な判断・選択をしていただくための資料・情報を提供するよう努めてまいりたいと思います。
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更新日:
2011年2月25日
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○ 参 考 資 料
1 平成23年度一般会計歳入予算 @ 租税及び印紙収入 40兆9,270億円 A その他収入 7兆1,866億円 B 公債金 44兆2,980億円 計 92兆4,116億円
2 租税及び印紙収入の内訳 @ 所得税 13兆4,900億円 A 法人税 7兆7,920億円 B 消費税 10兆1,990億円 C その他 9兆4,460億円 計 40兆9,270億円
3 主要国の付加価値税の軽減税率の概要
@ フランス (標準税率 19.6%) 食料品、書籍、旅客輸送、肥料、宿泊施設の利用、外食サービス等 5.5% 新聞、雑誌、医薬品等 2.1% A ドイツ (標準税率 19%) 食料品、水道水、新聞、雑誌、書籍、旅客輸送、宿泊施設利用等 7.0% B イギリス (標準税率17.5%) 食料品、水道水、新聞、雑誌、書籍、旅客輸送、医薬品、居住用建物の建築、 障害者 用機器等 0.0% 家庭用燃料、電力等 5.0% C スウェーデン (標準税率 25%) 医薬品等 0.0% 食料品、宿泊施設の利用等 12.0% 新聞、書籍、雑誌、スポーツ観戦、映画、旅客輸送等 6.0% D デンマーク (標準税率 25%) 軽減税率なし E カナダ (標準税率 5%) 食料品は0%としつつ、給付付き税額控除(大人約2万円、子供約1.5万円)あり
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更新日:
2011年2月25日
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